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【きさらぎ賞】ミニトランザットでかなえるベテラン厩務員の夢 定年まで残り3年「ぜひこの馬で超えたい」

 春の大舞台を目指すミニトランザットと山口厩務員

 「きさらぎ賞・G3」(9日、京都)

 寒さは続くが、それでも春は一歩一歩近づいている。今週淀で行われるきさらぎ賞は、まさにクラシックへ直結する大事な戦い。集結したのは飛躍を目指す若駒たち。その背中には、さまざまな人の思いも託される。

 杉山佳厩舎のミニトランザットは新馬戦快勝→京成杯3着と、V候補の一角を担う。担当するのはトレセン歴45年目、今年62歳となる大ベテランの山口育生厩務員だ。「前回は面白い競馬をしてくれたね。真面目な上に、器用さがあるのも分かったのは収穫だった。ここまでは言うことなし」と満足そうにほほ笑む。

 全姉で厩舎の先輩でもある重賞馬イフェイオンも担当しており、「よく食べるところと手脚が軽いのは似ている」としながら、2頭の違いも解説してくれた。「お姉ちゃんは入厩した時から、よその厩舎の人から褒められるぐらい体つきが良かった。こっちは体質が弱くて、牧場で我慢してもらってトレセンに来て鍛え上げられた。きつい調教にも頑張ってくれているし、人に手を掛けられてきたというのが分かる性格だよ。お姉ちゃんの方が牝馬の分、カッとしやすい」と苦笑いだが、その言葉の節々には深い愛情がにじみ出ている。

 その姉は昨年のフェアリーSを制覇。開業4年目だった厩舎に重賞初Vをもたらした。一方で、山口厩務員にとっては「うん十年ぶりぐらい」の担当馬の重賞タイトルだったという。「最初に飛ばし過ぎたからね」と振り返るのが、半世紀近いホースマン人生だ。

 北海道札幌市出身。中学卒業後に道内の牧場に勤務していたところ、すぐに声をかけられた。最初に所属したのは大久保石松厩舎。「気難しい職人気質のおじさんがいっぱいいた。でもその頃は気づきもしなかったけど、当時口酸っぱく言われたことが今も体に染みついている。口では説明できないんだけど、自分でこだわっている仕事っていうのが肌感覚で覚えている」。競馬のいろはを叩き込まれた青春時代を懐かしそうに振り返る。

 そこで1年目に担当したのがオオシマスズラン。オールドファンにはなじみがあるかもしれないが、「幻の桜花賞馬」として知られる。クラシック登録がなかったせいで桜の舞台には立てなかったが、そこまで4戦3勝。桜花賞と同日に行われた4歳牝馬特別を、桜花賞馬となったブロケードと全く同じタイムで快勝した。繁殖牝馬としても優秀で、孫には04年のスプリンターズS覇者カルストンライトオなど活躍馬を輩出している。

 山口厩務員は杉山佳厩舎の開業当初からのメンバー。最初の大久保石松厩舎から延べ4厩舎目となった。前厩舎の所属を離れた際には複数の厩舎からも声をかけられたというが、「開業の時に調教師が『オオシマスズランのひ孫(ナバロン)を俺に』って言ってくれて、気を使ってくれたんだ。ここでお世話になろうって、すぐに決めた」。馬が結んだ縁、トレーナーの気配りに感謝する。

 定年まで残り3年。まだ、やり残した夢がある。『幻の桜花賞馬』を担当したのが1年目で、2年目に担当したのがエリモローラだった。82年毎日杯や83年京都記念など複数の重賞を勝ち、皐月賞では5着と好走している。「ぜひ、この馬でそれを超えたいね」と、大きな期待をミニトランザットに寄せる。「でも、まずは権利を獲らないとね。それに人間ができることは限られているから。走るのは馬。こっちはやれることをやるだけ」。ベテランはいつも通り、気負わず朗らかに愛馬を週末のレースへ送り出す。(デイリースポーツ・島田敬将)


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